なりそこない

正常にも異常にも、幸せにも不幸せにもなりそこなった存在

唐揚げ南蛮の上のタルタルソース

 唐揚げ南蛮はとてもおいしい。この酸味の効いたコクのある南蛮ダレがいい。それから重要なのは一緒にかかっているタルタルソース。タルタルソースがタレと混ざり合うと、酸味が少し抑えられてこっくりとマイルドな味わいになる。とてもおいしい。

 ところで、自分で南蛮ダレを作ってみるとよくわかるのだが、あのタレには想像以上の量の砂糖が加えられている。考えてみれば当然である。酢がベースのタレなのだから砂糖を加えないことにはただただ酸っぱく、とても揚げ物に染み込ませて食べられるだけの味わいにはならない。そのように大量の砂糖が加えられたタレの上に、タルタルソースをたっぷりとかけるのである。カロリーが跳ね上がらないはずはない。もちろんメインになっているのが唐揚げである以上、唐揚げ自体のカロリーも無視できない。しかし、あのタレとタルタルのダブルパンチ。唐揚げ南蛮の恐ろしいまでのカロリーの源は、実はそこに潜むのである。

 学食のレシート(ご丁寧に購入商品の総カロリーと栄養素による簡易的な内訳を示してくれる)を眺めながら、私はわかりきっていたはずのその事実に戦慄していた。てろりと照明を反射して輝く、南蛮ダレとタルタルソース。一瞬の逡巡ののち、タルタルソースを唐揚げからこそげ落とした。

 期待していたよりも酸味が強い唐揚げ南蛮をほおばりながら、なんだか情けないような気分になった。私はきっとこうやって、別のなにかに怯えるせいで、そのもののいちばんいいところを自分で捨ててしまう人生を送るしかないのだ。そんな風に貧乏くさい生き方が唐揚げ南蛮の食べ方にまで表れているのかと思うと、どうしようもなく悲しかった。

 唐揚げが最後の一つになった。最後くらいたっぷりのタルタルソースとともに食べてやろう、そうして貧乏くさい生き方を少しでも裏切ってやろう、と息巻いていたが、如何せん唐揚げはそれ自体でも胃に応えるのである。最後の一つになるころには、胃が不快感を喚きはじめていた。私はタルタルソースをそれまで以上に丁寧にこそげ落としてから、最後の一つになったタレ付き唐揚げを口内に押し込んだ。