なりそこない

正常にも異常にも、幸せにも不幸せにもなりそこなった存在

図書室の主

 自治体設営の図書館はどことなく居心地が悪い。すぐに読んでしまうから、と言ってなかなか本を買ってもらえなかった私にとって貴重な活字の供給地だったが、だからといって入り浸ることはなかった。

 代わりに私が愛したのは、学校の図書室だった。自治体の図書館に比べると蔵書数もはるかに少なく、読みたい本がないこともしばしばだったが、それでも空間としての居心地は素晴らしい。

 第一に図書室は過疎化しがちだ。昼休みに友達とのおしゃべりにも興じないで図書室に籠る人間は多くともクラスに1人いるかどうか。その1人にさえなれば、全部とはいえなくとも少なくとも人一人座るスペースくらいは私有地化できる。

 中学のころに至っては図書館担当の教員と非常に仲が良かったため、彼を中心に私とその友人、他学年の生徒たちが集まって騒いでいた。ちなみにほかに利用者はいない。

 私は教室の中に自分の居場所はないような気がしていたし、むしろ居場所をその中に求めることを拒否していた。代わりに私は図書室に居場所を探した。かしましい同級生たちを無言で拒む、聖域。はつらつとした彼等からは見向きもされない、埃っぽい宮殿。私にとって図書室は自分が主権を持てる唯一の場所だった。

 だから私は、自分がゲストの一人として振る舞うことしかできない自治体図書館に居心地の悪さを感じる。規模が高校までとは段違いの大学図書館にもまだ馴染みきれていない。私は図書「室」の主、なのだ。